日本発のスタートアップが海外に進出することは、多くのチャンスにあふれた挑戦である一方で、文化の違いや現地制度、コミュニケーション手段の違いなど、特有の課題も伴います。
近年では、日本のスタートアップのおよそ20%が、海外展開を主要な目的のひとつとして設立されており、グローバル市場の魅力が広く認識されつつあることが分かります。
とくにアメリカやヨーロッパは、市場開拓や事業成長の面で大きな可能性を秘めた地域です。
本ガイドでは、信頼性の高いリサーチと現場での実体験をもとに、海外展開を成功に導くための8つの具体的な戦略をご紹介します。
1. スタートアップの国際的成熟度を評価する
海外展開に踏み出す前に、自社がグローバル化の準備ができているかどうかを客観的に評価することが大切です。以下の観点から、製品・組織・市場適応力を確認しましょう。
製品・技術の評価
自社の製品や技術が、世界的なニーズに応えているかを見極めましょう。
同様のソリューションを提供している海外の競合は存在するか?存在する場合は、自社との違いや優位性を明確にしておく必要があります。
オペレーション体制の確認
日本国外での業務が増加したり、より複雑になった場合に対応できる体制が整っているかを見直しましょう。
例えば、現地の言葉に対応できるカスタマーサポートや、多言語でのマニュアル・契約書の準備などが該当します。
PESTEL分析による外部環境の把握
自社の製品やサービスが、ターゲット市場にどの程度適合しているかを判断するために、以下6つの観点からマクロ環境を分析しましょう:
Political(政治):税制、補助金、貿易協定など、政府の政策が自社の事業にどう影響するかを確認します。
Economic(経済):インフレ率、金利、為替、購買力などが、事業収益や運営コストにどう関わるかを評価します。
Social(社会):人口構成、消費者行動、文化的背景など、現地の価値観や嗜好の理解が不可欠です。
Technological(技術):最新技術の進展が、自社にとっての機会になるか脅威になるかを見極めます。
Ecological(環境):環境規制やサステナビリティへの意識が、業界や消費者の行動にどう影響しているかを考えます。
Legal(法律):データ保護、雇用法、独占禁止法など、遵守すべき現地の法制度を把握しましょう。
SWOT分析による自社の現状把握
SWOT分析は、自社の現状を「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの視点から整理し、戦略を立てるフレームワークです。
Strengths(強み):競合より優れている点や、社内の主要なリソース
Weaknesses(弱み):社内の制約や非効率な部分
Opportunities(機会):市場のトレンドや未開拓領域
Threats(脅威):競争の激化、法規制、政治的リスクなど
分析の流れは以下のとおりです:
- 分析対象(企業、製品、プロジェクトなど)を明確に設定する
- 内部要因(強み・弱み)を洗い出す
- 外部要因(機会・脅威)を評価する
- それぞれの要素の組み合わせからアクションプランを検討する(例:強み×機会での成長戦略、弱み×脅威へのリスク対策など)
2. 文化的な違いを理解し、適応する
国際展開を成功させるためには、進出先市場との文化的ギャップを理解し、それに応じて戦略を柔軟に調整することが不可欠です。
CAGEモデル(文化、行政、地理、経済)を活用することで、日本とターゲット市場との違いを体系的に整理することができます。これらの違いを踏まえたうえで、現地の顧客が期待するコミュニケーションのスタイルや消費者の嗜好を理解することが重要です。
たとえば、日本では上下関係や敬語などの「距離感」が重視されますが、アメリカやヨーロッパの多くの国では、よりフラットでカジュアル、かつ率直なやり取りが好まれる傾向にあります。そのため、マーケティング戦略や交渉スタイル、カスタマーサービスの対応方法なども、現地の文化に合わせて柔軟にローカライズする必要があります。
製品やビジネスアプローチを現地文化にしっかり適応させることで、成功の可能性は大きく高まります。
以下は、文化的な誤解によって起きた実際の失敗事例です:
A. パナソニック「Touch Woody」キャンペーン(1996年/アメリカ)
パナソニックは1996年、アメリカ市場向けにタッチスクリーンPC「The Woody」を発売し、その特徴をアピールするために「Touch Woody」というスローガンを使いました。
しかし「Woody」は英語のスラングで「勃起」を意味し、意図せず下品で性的な印象を与える結果となってしまいました。
影響: アメリカの消費者やメディアからの反発を受け、このキャンペーンは失敗。ブランドイメージにも悪影響を与えました。
教訓: 製品名や広告スローガンを決める際には、単なる翻訳だけでなく、現地のスラングや文化的な感性まで含めた調査が不可欠です。とくにグローバル経験の少ない中小企業にとっては、こうしたミスが命取りになるリスクもあります。
少しのチェックで防げたはずのミスが、企業の信頼や印象に大きなダメージを与えることもあるのです。
B. ホンダ「Fitta」の名称問題(1990年代/スウェーデン)
1990年代、ホンダは北欧市場向けに新型車「Fitta」を発売しました。
しかし「Fitta」はスウェーデン語・ノルウェー語・デンマーク語で、非常に不快な女性器のスラングを意味しており、現地では大きな批判を受けました。
影響: この問題を受けて、ホンダは急遽車名を「Honda Jazz」に変更。ブランドイメージの回復を図りましたが、結果的に追加のコストと発売遅延が発生しました。
教訓: 言語の違いは単なる翻訳の問題にとどまらず、文化的背景や感情にも直結します。新しい市場に進出する際には、製品名が現地でどのように受け取られるのか、あらゆる視点から検討すべきです。
特に限られたリソースで挑戦する中小企業にとって、このような失敗は致命的になりかねません。
3. ターゲット市場と顧客セグメントを正確に特定する
国際展開を成功させるためには、緻密なターゲット設定が欠かせません。
単に各国のGDPや人口といったマクロ経済指標を見るだけでは不十分で、自社のバリュープロポジション(価値提案)がどの市場で最も受け入れられやすいかを見極める必要があります。
また、進出先の市場における規制の壁や競合の状況、消費者の購買行動についても詳細に分析することが求められます。
そのためには、以下の3つの視点から市場を丁寧に分析していきましょう。
A. 二次情報の活用
OECDやEurostatといった公的機関が提供する統計データやレポートを使い、各国の経済状況や業界動向を把握します。
これは市場選定の初期段階において、全体像をつかむのに有効です。
B. 現地調査の実施
実際の顧客に対するフォーカスグループ、インタビュー、ユーザーテストなどを行い、リアルなニーズや使用状況を把握します。
現地の声を直接聞くことで、製品やサービスをその市場に適した形に調整することができます。
C. 精緻なセグメンテーション
「自社の製品・サービスが、誰に・どの地域で最もマッチするのか」を明確に定義します。
同時に、競合の存在や規制の厳しさも考慮し、市場参入のハードルが低く、勝算のある地域を見極めます。
このように、マクロ(データ分析)とミクロ(現地調査)の視点をバランスよく取り入れることで、限られたリソースを最も有望な市場に集中させることができ、効果的な国際展開が実現できます。
4. 海外ユーザー向けにウェブサイトを再構築する
日本国内向けに設計されたウェブサイトは、そのままでは海外市場で十分に機能しないことがあります。
国際展開を目指すスタートアップにとって、グローバルユーザーに対応したウェブサイトへの再設計は欠かせません。
まず、インターフェース(UI/UX)は、誰でも直感的に操作でき、国を問わずスムーズにナビゲーションできるよう設計される必要があります。
さらに、各国で検索されやすくするためには、現地に合わせたSEO対策(ローカルSEO)も重要です。
加えて、現地通貨での価格表示やローカル決済手段(例:PayPal、Alipay、Klarnaなど)を導入することで、購入ハードルを下げ、訪問者のコンバージョン率を高めることができます。
海外ユーザーにとって、ウェブサイトはあなたのサービスやブランドに初めて触れる「入り口」です。
そのため、以下の3つの観点から最適化を図りましょう。
コンテンツ
単なる機械的な翻訳ではなく、ターゲット国の言語や文化的背景を考慮したローカライズが重要です。
たとえば、日本でよく使われる表現や比喩が、他国では伝わらない場合もあります。文化の違いを理解したうえで、自然で共感されやすい表現に調整しましょう。
インターフェース(UI/UX)
国や地域によって、ユーザーのウェブ閲覧習慣やデザインに対する好みは異なります。
誰にとっても使いやすく、分かりやすいインターフェースを提供することが、ユーザー離脱の防止につながります。
SEO対策と決済機能の最適化
現地で実際に検索されやすいキーワードを使ってSEOを行い、GoogleだけでなくNaver(韓国)、Baidu(中国)などのローカル検索エンジンにも対応しましょう。
また、現地通貨での価格表示や地域に合った決済手段を導入することで、スムーズで安心感のある購入体験を提供できます。
ユーザー体験は、どこの国の人であっても同じレベルで最適化されているべきです。
一貫性があり、信頼感のある顧客体験を提供できれば、海外のユーザーにも「選ばれるブランド」として認識されるようになります。

(※例:Yahoo! JAPANとYahoo! USの画面デザインの違いなどを比較すると、ローカライズの重要性がよくわかります)
5. 市場に応じた適切なコミュニケーションチャネルを活用する
コミュニケーションの習慣や好まれる手段は、地域によって大きく異なります。
そのため、各市場でどのチャネルを優先すべきかを正しく理解することが、顧客との効果的なエンゲージメントを実現する鍵となります。
メッセージアプリ
日本ではLINEが主流ですが、ヨーロッパや中南米ではWhatsAppやTelegramが圧倒的なシェアを誇っています。
中国ではWeChatが日常のあらゆるやり取りに使われており、現地進出時には必須のツールです。
ソーシャルメディア
InstagramやFacebookは、グローバルのB2C市場で欠かせないプラットフォームです。
一方で、ロシアではVK(VKontakte)、中国ではWeiboといった、現地特有のSNSが主に使われているケースもあります。これらの地域では、こうした独自プラットフォームへの対応がブランド認知の鍵となります。
メール・ニュースレター
メールでの情報提供が好まれる国もあれば、メッセージアプリでのスピーディーなコミュニケーションが好まれる地域もあります。
文化やユーザーの習慣によって、適切な手段を見極めることが大切です。
また、現地特化型のメディアやインフルエンサーを活用することで、より効果的にブランドの可視性を高めることも可能です。
つまり、現地の人々が日常的に使っているチャネルを理解し、そこに合わせて発信していく姿勢が重要です。
そのうえで、単一のチャネルに依存するのではなく、マルチチャネル戦略を取り入れ、ターゲットの期待や行動に最も合ったプラットフォームを選定することが成功のカギとなります。
こうした柔軟かつ戦略的なチャネル運用によって、現地ユーザーとの信頼関係を築き、エンゲージメントを最大化することができます。
6. 海外の公的機関や支援団体を活用する
海外展開を目指す企業にとって、各国に存在する公的機関や民間の支援団体は、非常に心強い存在です。
これらの機関は、現地に関する最新の情報、人脈形成、資金支援など、多面的なサポートを提供しており、国際展開の加速に大きく寄与します。
以下は、代表的な支援機関の一例です:
・Business France(ビジネス・フランス)|フランス
フランス国内外で事業展開を希望する企業に向けて、ターゲット市場の情報提供、現地パートナーとのマッチング支援、国際イベントの開催などを行っています。
・GTAI(Germany Trade & Invest)|ドイツ
ドイツ市場に進出を希望する企業に対して、市場調査や投資手続きのサポート、現地パートナーの紹介など、実践的な支援を提供しています。
・SelectUSA|アメリカ
外国企業のアメリカ進出を支援する政府主導のプログラム。
ビザや行政手続きに関するサポートから、現地投資家やビジネスパートナーとのネットワーキングまで、幅広い支援が受けられます。
・EU Scale-Up Program(EUスケールアップ・プログラム)|欧州連合
高成長スタートアップを対象に、ヨーロッパ市場での拡大を支援。
資金調達や市場進出戦略のアドバイスなど、成長段階に応じたサポートが用意されています。
これらの支援制度を活用することで、新たな市場への参入リスクを抑えつつ、コスト効率を高め、スムーズな国際展開を実現することができます。
「自社単独での進出」にこだわるのではなく、こうした制度を戦略的に活用する視点が、海外展開の成否を大きく左右するでしょう。
7. 市場参入を加速させるためには、現地パートナーの存在が不可欠
現地にパートナーを持たずに新たな市場に参入することは、高いリスクと多大なコストを伴います。
一方で、信頼できるパートナーがいれば、その市場における知見を活かして、よりスムーズかつ迅速に展開することが可能になります。適切なプレイヤーとつながるための架け橋としても重要です。
以下のような提携が、特に効果的とされています:
・現地ディストリビューターとの連携
その国・地域特有の流通構造や消費傾向を理解しているディストリビューターを選定することで、物流上のリスクを最小限に抑えつつ、効率的な流通網を構築することが可能になります。
また、彼らは販売促進の重要なパートナーでもあり、自社製品やサービスの市場浸透を後押ししてくれます。
・メンターやアドバイザーとの協働
現地の事情に精通した専門家やアドバイザー、メンターと組むことで、初期段階にありがちなコストのかかる失敗を避けることができます。
市場動向、法律・規制、ビジネス文化に関する深い知識は、確かな意思決定を支える貴重なリソースです。
・ビジネスアライアンスやジョイントベンチャーの活用
特定市場での長期的な事業展開を見据える場合、戦略的提携やジョイントベンチャーは非常に有効な手段です。
自社の強みと現地パートナーのネットワークやノウハウを組み合わせることで、競争優位性を高め、成功の確率を大きく引き上げることができます。
現地パートナーがもたらすのは単なる「信頼」だけではありません。
その人脈や市場との接点を通じて、スピーディーな事業展開が可能となり、スタートアップや中小企業にとっては成長のブースターとなり得ます。
8. 多文化チームとネットワークの構築が国際展開のカギ
海外市場で成功するには、進出先の文化や慣習を深く理解し、それを事業に取り入れることが不可欠です。そのために必要なのが、多様な文化的背景を持つチームです。こうしたチームのメンバーは、グローバルな視点とローカルの感覚を併せ持ち、現地市場にフィットした意思決定を下す力を備えています。
国際チームを強化するうえで、以下のような人材やネットワークが重要です:
・現地採用のスタッフ
現地の顧客ニーズや期待を的確に把握し、それに応じて製品やサービスを最適化することができます。また、法律や商慣習への対応力も高く、事業運営の安定化に貢献します。
・語学力と異文化対応力を備えたチーム
多言語対応が可能なメンバーがいれば、市場間のコミュニケーションが格段にスムーズになります。英語などの共通語に加え、現地言語を話せる人材がいれば、商談・交渉も円滑に進められ、言語の壁によるストレスを減らすことができます。
・コンサルタントやフリーランスの活用
プロジェクトごとの専門知識や柔軟な対応力が求められる場面では、外部人材を活用するのが効果的です。社内に大規模な体制を持たずとも、必要なときに専門家の知見を取り入れることで、効率よく質の高いアウトプットを得ることができます。
国際展開には、多くの準備と慎重な対応が求められますが、日本のスタートアップにとっては新たな顧客層へアプローチし、成長機会を広げる絶好のチャンスでもあります。
これまで紹介してきた「国際化の成熟度評価」「文化への適応」「信頼できるパートナー探し」などの戦略を実行することで、海外進出のための強固な土台を築くことが可能です。
しかし、成功の鍵を握るのは、戦略だけではありません。現地での実践的な知識や、異文化マネジメント、パーソナルなサポートもまた重要です。
Utsuboの国際展開サポート
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