東京のミュージアムでマーケティングを担当している 30 代。
インバウンド向けの予算はあるけれど、Web やインタラクティブ展示のことになると、
- 「英語ページはあるけれど、本当に外国人に届いているのか分からない」
- 「展示のキャプションも UI も日本語前提でつくってきたので、どこから手をつければいいか分からない」
- 「デジタルの企画会社は多いが、外国人の体験までちゃんと考えてくれるのか不安」
こんなモヤモヤを抱えている方は多いのではないでしょうか。
一方で、インバウンド市場はコロナ前を大きく超えるスピードで回復し、2024 年には訪日外国人は 3,000 万人をゆうに超え、消費額も過去最高を更新しました。2025 年の大阪・関西万博を経て、文化・アート・ミュージアム領域への期待と競争はさらに高まっています。
このガイドでは、そんな皆さまに向けて、
- 訪日外国人と日本人では「同じ展示を見ていても、まったく違う体験になりうる」理由
- ミュージアムの Web サイト と インタラクティブ・インスタレーション を、外国人に届くように設計するポイント
- その両方を支える制作パートナーの選び方
を、実務視点で整理しました。
1. 急成長するインバウンド市場と、ミュージアムのチャンス
まずは前提となるマーケットのサイズ感を押さえておきましょう。
- 2024 年、日本を訪れた外国人旅行者数は 約 3,690 万人。コロナ前の 2019 年(約 3,190 万人)を上回り、過去最高を更新しました。
- 訪日外国人による旅行消費額は 約 8.1 兆円 と過去最高。1 人あたりの消費額も 20 万円台後半まで伸び、観光は日本の主要輸出産業の 1 つになりつつあります。
- 2025 年も年初から記録的なペースで推移しており、「6,000 万人(2030 年目標)」を見据えた長期成長産業として位置づけられています。
つまり、「日本に来てくれている外国人のパイ」は、すでに十分大きく、今後もしばらく右肩上がりが期待されるということです。
このとき、ミュージアムや文化施設にとってのボトルネックは、「立地」ではなく「体験の設計」になります。
- 日本人にとっては分かりやすい展示構成やキャプションでも、外国人にはほとんど情報が届いていない
- Web サイトを見ても、「どんな体験ができる場所なのか」「英語でどこまで案内してくれるのか」が分からない
——このギャップを埋めた施設から、インバウンド需要を着実に取り込んでいくことになります。
2. 日本人と訪日外国人は、同じ展示を見ているようで見ていない
2-1. 事前リサーチのチャネルがまったく違う
日本人の来館者は、
- テレビや Web メディアの記事
- ミュージアムの公式サイト(日本語)
- ポスターや駅広告
といったチャネルから情報を得て来館することが多いでしょう。
一方、訪日外国人の多くは、
- Google 検索・Google マップ
- TripAdvisor・Booking.com・旅行系ブログ
- Instagram・TikTok・YouTube
といった「海外発のプラットフォーム」から情報収集します。
そしてほぼ全員が スマートフォンの小さな画面 で、次のようなことを素早くチェックしています。
- このミュージアムは、英語で楽しめるのか
- チケットの買い方は分かりやすいか、予約制か
- 写真撮影や子ども連れに向いているか
- アクセスは簡単か、旅程のどこに組み込めそうか
ここで公式 Web サイトが「日本語前提・PC 前提」のままだと、そもそも選択肢に入ってもらえません。
2-2. 会場での「読みやすさ」がまったく違う
展示室に入ったとき、日本人であれば、
- 難しい漢字が並ぶ長文キャプション
- コンテクストが前提として共有されている解説文
- 暗い環境でも読みやすいフォントサイズ
にある程度は慣れています。
しかし、訪日外国人にとっては、
- 日本語だらけのパネルは「情報の壁」にしか見えない
- 英語キャプションがあっても、フォントが小さく、照明条件も悪くて読みづらい
- どこまでが「触っていい展示」なのか、マナーやルールが分かりづらい
といったストレスが積み重なり、「よく分からないまま写真だけ撮って終わる」体験になりがちです。
2-3. 「何が面白いのか」のツボが違う
日本人にとっては自明な歴史的背景や文化的コンテクストも、
外国人にとっては ゼロから説明してほしい前提情報 です。
例えば、
- 地名や人名は、世界のどこに位置づけられる話なのか
- なぜこの作品や遺物が、日本や世界にとって重要なのか
- 現代の私たちの生活とどうつながるのか
といった「橋渡し」がないと、どれだけ貴重な展示でも「ただの古いもの」に見えてしまいます。
だからこそ、訪日外国人に届く体験づくりでは、
- Web サイト:来館前に「ここは自分に関係のある場所だ」と理解してもらうストーリー
- インタラクティブ展示:言語や予備知識を超えて、「なるほど」と腑に落ちる体験の設計
の両方が重要になります。
3. 訪日外国人に届くミュージアム Web サイトのポイント
3-1. 必須情報を「探させない」
訪日外国人がまず知りたいのは、美しいコンセプトコピーではなく 実務的な情報 です。
- 開館時間・休館日
- チケット料金・購入方法(オンライン予約の有無、当日券の有無)
- 使用可能な言語(案内スタッフ・音声ガイド・パンフレット)
- アクセス(最寄り駅・空港からの行き方・所要時間)
- バリアフリー情報(エレベーター・スロープ・ベビーカー・多目的トイレなど)
- 写真撮影のルール・混雑しやすい時間帯
これらは、トップページか 英語トップの 1 画面目 で、アイコンや見出しを使いながら一望できる構成にするのがおすすめです。
3-2. 多言語対応は「構造」から設計する
多言語サイトでは、「翻訳を追加する」のではなく 情報設計を多言語前提にする ことが重要です。
- すべてのページに、常に見える位置に 言語切り替え を設置する
- 日本語サイトと英語サイトで、ページ構造が大きくズレないようにする
- 最低限の優先言語として英語、そのうえで自館の来館者データに応じて
中国語(簡体字・繁体字)・韓国語などを検討する - 日本語と同じ分量を全言語で用意するのではなく、
外国人にとって特に重要なページ(トップ・チケット・アクセス・代表的な展示)から優先的に整備する
これはミュージアムだけでなく、ブランドサイトやキャンペーンサイト でも同様です。
海外のファンや旅行者を意識するなら、「日本語版のおまけとして英語を用意する」という発想からは卒業する必要があります。
3-3. コンテンツは「ストーリー+実用」の二軸で
外国人向けのコンテンツでは、次の 2 つをセットで設計すると伝わりやすくなります。
ストーリー(なぜここに来る価値があるのか)
- ミュージアム/展示のテーマ
- どんな人におすすめなのか(歴史ファン、家族連れ、アート好き…)
- 他の観光スポットとどう違うのか
実用情報(来ると何が起きるのか)
- 滞在時間の目安(例:1〜2 時間でハイライト、半日じっくりなど)
- 代表的な体験(インタラクティブ展示、ワークショップ、夜間開館など)
- 写真映えするスポットや、家族連れでも楽しめるポイント
「パンフレット PDF をそのまま英訳して載せる」のではなく、
グローバルな旅行者の視点でコンテンツの優先順位を整理することが大切です。
3-4. グローバル UX の基本
訪日外国人向けの Web サイトでは、次のような UX の基本を押さえておきましょう。
- モバイルファースト:スマホで見たときに、文字サイズ・行間・ボタンのタップしやすさが最適化されているか
- ナビゲーションのシンプルさ:メニューは 5〜7 項目程度に抑え、「Tickets」「Visit」「Exhibitions」のような国際的に理解されやすいラベリングにする
- 読みやすい英語:観光客向けには、ネイティブでなくても理解しやすいシンプルな英語表現にする
- 検索・SNS からの着地を想定:トップページだけでなく、展示詳細ページから入ってきたユーザーにも、施設全体の概要が伝わる導線を用意する
Utsubo では、国内外のブランド/企業の Web 体験を多数手がけてきました。
その実績から言えるのは、「美しいビジュアル」と同じくらい 情報設計と言葉選び がインバウンドに効く、ということです。
4. 訪日外国人に向けたインタラクティブ・インスタレーション設計
4-1. 最初の 10 秒で「どう遊ぶか」を伝える
インタラクティブ展示は、「面白そうだけれど、どう触ればいいか分からない」と誰も触らないまま終わってしまうことがよくあります。
訪日外国人向けには特に、
- スタート画面やアイドル状態で、アニメーションやピクトグラム で遊び方を示す
- 英語を含む複数言語で、「ここに立つ」「ここに触る」「ここから始める」を短いフレーズで表示する
- 前の人の動きが、次の人にとっての「チュートリアル」になるよう、
体験の長さや回転率をデザインする
といった工夫が重要です。
4-2. 言語に依存しないインタラクションを優先する
言語の壁を越えるためには、身体感覚で理解できるインタラクション を優先しましょう。
- スマートフォンでおなじみのジェスチャー(タップ・スワイプ・ピンチイン/アウトなど)
- 立つ・手を振る・ジャンプするといった全身の動き
- 色や形、音の変化によるフィードバック
そのうえで、どうしても言語が必要な部分は、
- 文章を極力短くする
- 難しい単語を避け、シンプルな英語にする
- 可能であれば英語以外の言語にも対応する(UI としては 2〜3 言語までを推奨)
といった設計が、外国人にも日本人にも優しい体験になります。
4-3. 文化背景のギャップを埋めるナラティブ
インタラクティブ展示は、「ただ触って楽しい」だけで終わらせるのはもったいない存在です。
訪日外国人にとっての価値を最大化するには、
- 触れる前に「なぜこのテーマが重要なのか」を 1〜2 行で伝える
- 体験の中で、時間軸(Before / After)や地図(ここは世界のどこか)を見せる
- 体験の最後に、「今日学んだこと」を振り返る簡単な結果画面を用意する
といった ストーリーテリング を組み込むことが効果的です。
4-4. 導線・混雑・撮影ニーズを前提にする
インバウンド客は、限られた滞在時間の中で多くのスポットを巡ります。
そのため、インタラクティブ展示には次のような配慮も必要です。
- 一人あたりの体験時間を設計し、行列ができていても「待つ価値がある」と思える演出をする
- グループや家族で一緒に楽しめる要素(結果を共有するモニター、記念写真など)を用意する
- 写真・動画を撮りたくなるアングルやタイミングをあらかじめ設計する
「SNS に投稿されること」までをデザインできると、ミュージアムの認知拡大にもつながります。
5. 日本のミュージアムが陥りがちなつまづき
外国人向け施策で、よく見られるつまづきをいくつか挙げます。
最後に慌てて英訳だけ足す
- 企画・デザインは日本人向けに完了したあと、納期ギリギリで英訳を流し込む
- その結果、文字量過多・可読性の低い英語 UI が生まれてしまう
Web と会場体験がバラバラ
- Web サイトは広報部門、展示は学芸員・制作会社と完全に分業されている
- そのため、オンラインで見た印象と、実際に訪れたときの体験がつながらない
「外国人も日本人と同じように分かってくれるはず」という前提
- コンテクスト説明を省略しすぎて、「なぜこれが重要なのか」が伝わらない
- 逆に説明を詰め込みすぎて、「読む気がしない壁テキスト」になってしまう
本当に必要なのは、日本人と外国人のどちらにとっても分かりやすい体験 にすることです。
6. 「翻訳」から「グローバル体験設計」へのロードマップ
いきなりすべてを作り直す必要はありません。
現実的には、次のようなステップで進めるのがおすすめです。
ステップ 1:Web の「最低限」を整える
- 英語トップページを、スマホ前提で組み直す
- チケット・アクセス・代表的な展示のページを優先的に英語対応する
- アナリティクスで、訪日外国人の流入元(国・デバイス・チャネル)を計測し始める
ステップ 2:外国人を主ターゲットにした体験を 1 つつくる
- 常設展示の中に、訪日外国人を明確に主ターゲットとしたインタラクティブ展示を 1 つ導入する
- そこで得られた学び(混雑状況・回転率・満足度・SNS 投稿など)を、次の企画に活かす
ステップ 3:Web と展示を一つのストーリーでつなぐ
- Web サイト上で、そのインタラクティブ展示を「ここに来る理由」として大きく打ち出す
- 会場では、Web で見たビジュアルやコピーがそのまま登場することで、「ここだ」と分かるようにする
- 体験後に QR コードから追加情報やアンケートに誘導し、次の来訪や寄付・グッズ購入につなげる
このように段階的に進めることで、限られた予算でもインバウンド向けの体験価値を着実に高めていく ことが可能です。
7. 制作パートナー選びのチェックポイント
訪日外国人向けの Web とインタラクティブ展示を一体で設計するには、次のような観点でパートナーを選ぶと安心です。
クロスカルチャーな視点を持っているか
- チームに外国籍メンバーや、海外でのプロジェクト経験者がいるか
- 英語でのコミュニケーションやユーザーテストが可能か
- 日本人と外国人の両方の視点で体験をレビューしてくれるか
Web とインスタレーションを一貫して設計できるか
- Web サイト制作とインタラクティブ・インスタレーションの両方の実績があるか
- オンラインとオフラインを一つのストーリーとして設計してくれるか
- KPI 設定(来館者数・体験率・SNS 投稿など)と計測方法の提案があるか
上流から伴走してくれるか
- 「とりあえず仕様書どおりに作る」のではなく、企画段階から相談に乗ってくれるか
- 予算や運営体制に応じて、段階的なロードマップを一緒に描いてくれるか
- オープン後の改善やアップデートも視野に入れているか
8. Utsubo のご紹介:外国人に届く体験づくりのパートナー
Utsubo は、大阪を拠点とする インタラクティブ体験と Web 体験に特化したクリエイティブスタジオ です。
- 大阪・関西万博 2025 では、複数のパビリオンでインタラクティブ・インスタレーションの企画・制作を担当しました。
- 日本国内外のブランドや企業の Web 体験を制作。
- 多国籍なクリエイティブチーム による、クロスカルチャーな視点での UX / デザイン提案。
- 2025 年には、自社の Web サイトが X(旧 Twitter)上で 数百万ビュー規模の話題 を呼び、世界中のユーザーから反響をいただきました。
「外国人にどう語りかければいいか分からない」
「ミュージアムの魅力を、デジタルでどう翻訳すればいいか迷っている」
そんな段階から、私たちはご一緒できます。
30 分の無料相談のご案内(CTA)
- 訪日外国人向けに、Web サイトやインタラクティブ展示を見直したい
- 周年企画に向けて、インバウンドに強い体験づくりを検討したい
- まずは現状の Web や展示の課題感を一緒に整理してほしい
という方は、ぜひ 30 分の無料オンライン相談 をご活用ください。
こちらから 30 分の無料相談を予約 していただくと、
現在の課題やゴールをお伺いしたうえで、
- どこから手をつけるのがもっとも効果的か
- Web と展示のどちらを優先的に改善すべきか
- 予算やスケジュールに応じた現実的なプラン
を、その場でフィードバックいたします。
9. ミュージアム担当者のためのチェックリスト(抜粋)
- 英語トップページから、開館情報・料金・アクセス・代表的な展示が 1 画面で把握できる
- 言語切り替えボタンが、すべてのページで分かりやすい位置にある
- 外国人向けに設計したインタラクティブ展示が、少なくとも 1 つは存在する
- Web と展示で、同じビジュアル・コピーが使われ、ストーリーがつながっている
- 写真撮影や SNS で共有したくなる瞬間が、あらかじめデザインされている
- アナリティクスで、訪日外国人の国・地域や流入チャネルを把握している
- 企画段階から、インバウンドに強い制作パートナーに相談できている
10. よくある質問(FAQ)
Q. 訪日外国人向けにミュージアム展示を見直すタイミングはいつですか?
A. インバウンド比率が上がってきたと感じたタイミング、もしくは Web サイトリニューアルや常設展示の刷新、万博や周年事業など大きな節目の前が見直しの好機です。予算やコンセプトが固まる前、できるだけ早い段階から「外国人視点」で体験全体を設計すると、後からの手戻りを減らしつつ、効果の出やすい投資がしやすくなります。
Q. 多言語 Web サイトは何語から対応すべきですか?
A. まずは英語を優先し、そのうえで自館の来館者データや自治体・JNTO などの統計を見ながら、中国語(簡体字・繁体字)や韓国語など主要マーケットの言語を追加していくのが現実的です。すべての情報を全言語で完璧にそろえるよりも、「訪日外国人が最初に知りたい情報(場所・チケット・言語対応・代表的な体験)」から優先的に多言語化することをおすすめします。
Q. 訪日外国人向けインタラクティブ展示や Web サイトの予算目安はどのくらいですか?
A. 規模や内容によって大きく異なりますが、タッチパネル 1 台を使ったシンプルなインタラクティブ展示で 500 万円前後から、中〜大規模の常設展示や複数デバイス連動型の体験では 1,000 万〜3,000 万円程度のケースもあります。多言語対応のブランド/ミュージアム Web サイトは、ページ構成・対応言語数・ビジュアル表現のレベルによって数百万円〜のレンジ感です。いずれも企画・デザイン・開発費であり、機材や施工費は別途となることが一般的です。
Q. どの段階から制作パートナーに相談してもよいですか?
A. 「まだ社内で企画を検討している段階」や「予算取りのためのたたき台を作りたい」というタイミングから相談いただくのが理想的です。体験のコンセプト設計や、Web とインタラクティブ展示をどうつなげるかといった上流の議論から参加することで、インバウンド施策全体の ROI を高めやすくなります。




