依頼書(ブリーフ)の質が、インスタレーションの質を決める。
これは大げさな表現ではありません。数百件のプロジェクト相談を受けてきた経験から断言できます。丁寧に情報を整理したブリーフを提出したクライアントは、より的確な提案を受け、見積もりの精度も高く、最終的により良いインスタレーションを実現しています。
一方、曖昧なブリーフは、提案のミスマッチ、予算の想定外、クリエイティブ面での摩擦を招きます。
本ガイドでは、正確な見積もりと優れた成果を引き出すブリーフの書き方を解説します。初めてインタラクティブ・インスタレーションを発注する方にも、既存のプロセスを改善したい方にも参考になる内容です。
対象読者: マーケティング責任者、美術館・博物館のプロジェクトマネージャー、ブランド体験担当者、インタラクティブ・インスタレーションを初めて発注する方
要点まとめ
- 完全なブリーフは7つの領域をカバーする:目的、対象者、空間、スケジュール、予算、参考資料、制約条件
- 図面と来場者数がなければ、制作会社は正確な見積もりを出せない
- 優れたブリーフは「作りたいもの」ではなく、**「解決したい課題」**を記述する
- ポップアップは8〜12週間、常設は3〜6ヶ月以上を見込む
- 予算レンジの共有は、より適切な提案につながる
1. なぜブリーフがそれほど重要なのか
1-1. 曖昧なブリーフは提案のミスマッチを生む
「ロビーにインタラクティブなものが欲しい」というブリーフでは、制作会社は推測するしかありません。目的はブランド認知なのか、来場者エンゲージメントなのか、リード獲得なのか。空間はどのような状況か。予算感は?
情報がなければ、制作会社は無難で汎用的な提案に留めるか、予算を超えた野心的なコンセプトを出すか——どちらにしても最適な結果にはなりません。
1-2. 不足情報は「仮定」で補われる
ブリーフに欠けている情報があると、制作会社は仮定を置いて進めるしかありません。図面がなければ標準的なサイズを想定し、バッファを積みます。来場者数がなければ中程度のトラフィックを前提に設計し、本番で問題が起きるリスクを抱えます。予算レンジがなければ、同じブリーフに対して300万円から5,000万円まで幅広い提案が届くこともあります。
こうした仮定は、コストとスケジュールに跳ね返ります。
1-3. ブリーフは制作会社を見極めるツールでもある
良いブリーフは制作会社にプロジェクトを理解させるだけでなく、制作会社を評価する材料にもなります。ブリーフへの反応を見れば、その会社の思考プロセス、細部への配慮、課題解決への真剣さが分かります。
的確な質問を返し、ブリーフの目的に直接応える提案をしてくる制作会社は、検討に値するパートナーです。
2. ブリーフに必須の7項目
2-1. プロジェクトの目的と成功指標
まず「なぜ」から始めます。解決したいビジネス課題は何か?
記載すべき内容:
- このインスタレーションで何を解決したいのか
- 成功をどう測定するか(滞在時間、SNS投稿数、リード獲得数、来場者満足度など)
- ローンチ後6ヶ月時点での「成功」とはどのような状態か
- 社外向けの目標に加え、社内向けの目標(経営層への訴求、チームの士気向上など)はあるか
良い例:
「旗艦店での平均滞在時間を15%向上させ、月間500件以上のSNS投稿を生み出すインスタレーションを求めています。」
「SNS映えするものが欲しい」よりも、はるかに有用な情報です。
背景:
- プロジェクト種別:[展示会 / イベント / 常設]
- 組織:[組織と業界の説明]
- 現在の課題:[解決したい問題]
- スケジュール:[わかれば大まかな日程]
以下についてサポートをお願いします:
- 2〜3つの主要なビジネス目標を明確化
- 測定可能な成功指標の定義(滞在時間、エンゲージメント、SNSシェア、リード獲得など)
- 社内目標と対外目標の整理
- 制作会社へのブリーフ前に解決すべき矛盾点の特定
2-2. ターゲットユーザー
実際にインスタレーションを体験するのは誰か?
記載すべき内容:
- 主要ターゲットとサブターゲット
- 年齢層とデジタルリテラシー
- アクセシビリティ要件(車椅子対応、視覚・聴覚への配慮など)
- 1日あたり・1時間あたりの想定来場者数
- ピーク時間帯(週末、祝日、イベント開催時など)
- グループ構成(個人、家族連れ、団体など)
来場者数は、ハードウェア要件、耐久性仕様、コンテンツ設計に直接影響します。1日50人向けの設計は、500人には耐えられません。
2-3. 空間・現場情報
多くのブリーフが不十分なのがこの項目です。制作会社は物理的な制約を理解しなければ、実現可能な提案ができません。
必須の資料:
- 図面(寸法入り)——手書きのスケッチでも可
- 天井高、頭上の障害物
- 電源の位置と容量
- 空調(プロジェクターやセンサーには重要)
- 自然光の入り方(時間帯による変化)
- 複数アングルからの写真
- 搬入経路の制約(搬入口、エレベーターサイズ、扉幅)
- 既存インフラ(ネットワーク、映像音響設備、ビル管理システムとの連携要否)
ヒント: スマートフォンで現場を歩きながら動画撮影すると、図面だけでは伝わらない情報を補完できます。
2-4. スケジュールと重要日程
期日とその背景を明確に伝えます。
記載すべき内容:
- 絶対に動かせない期日(グランドオープン、イベント開催日、取締役会報告など)
- 社内承認のマイルストーンと関係者
- 現場への立ち入りがいつから可能か
- 常設か、仮設か、期間限定か
- 作業ができない期間(営業時間、繁忙期など)
一般的な所要期間:
- ポップアップ・イベント:8〜12週間(承認が迅速な場合)
- 常設インスタレーション:3〜6ヶ月以上
- 大規模・技術的に複雑なプロジェクト:6〜12ヶ月
スケジュールがタイトな場合は正直に伝えてください。制作会社は創意工夫で対応するか、正直に実現不可能と伝えてくれます。
2-5. 予算レンジ
クライアントが最も隠したがる情報ですが、最も重要な情報でもあります。
予算レンジを共有すべき理由:
- 制作会社が予算内で実現可能な提案を検討できる
- 予算8,000万円のときに3億円の提案を見る時間を省ける
- 真剣に検討していることが伝わる
伝え方の例:
「本プロジェクトでは1,000万〜1,500万円の予算レンジを検討しています。このレンジ内で何が可能か、段階的なオプションをご提案いただけると助かります。」
予算に含めるべき項目:
- 企画・クリエイティブ開発
- ハードウェア・機材
- ソフトウェア開発・コンテンツ制作
- 設置・施工・調整
- 研修・ドキュメンテーション
- 保守運用(年間10〜15%が目安)
予算帯の詳細はインタラクティブ・インスタレーション費用ガイドをご参照ください。
2-6. 参考事例・インスピレーション
言葉だけでなく、ビジュアルで伝えます。参考資料は認識のズレを大幅に減らします。
記載すべき内容:
- 気に入っているインスタレーション事例を3〜5点(URLまたは画像)
- 各事例についてなぜ気に入っているか——ビジュアル?インタラクション?技術?
- 避けたい事例(アンチリファレンス)とその理由
- ブランドガイドライン(ロゴ、カラー、書体、トーン)
- 既存のマーケティング素材
トーンの方向性:
- 遊び心 vs 洗練
- ハイテク vs 自然・オーガニック
- 教育的 vs 純粋な体験
- 目を引く派手さ vs 控えめなアンビエント
2-7. 制約条件・要件
すべてのプロジェクトには譲れない条件があります。早めに共有しましょう。
技術的制約:
- 既存CMSやコンテンツ管理システムとの連携要件
- 特定のハードウェア要件(または制限)
- 情報システム部門のセキュリティ・ネットワークポリシー
- データ取り扱い要件
法令・コンプライアンス:
- 個人情報保護法(APPI)、GDPR等への対応
- アクセシビリティ基準(JIS X 8341-3、バリアフリー法)
- 許認可・申請が必要な事項
運用要件:
- コンテンツ更新は誰がどのように行うか
- メンテナンスアクセス(24時間対応、営業時間内のみ、定期メンテナンス窓口)
- スタッフ研修のニーズ
- 多言語対応
社内事情:
- キーステークホルダーと意思決定者は誰か
- 承認プロセスはどうなっているか
- 組織内に異なるビジョンを持つ関係者はいるか
社内力学を率直に伝えることで、双方の時間を節約できます。
3. ブリーフに書かない方がよいこと
解決策を指定しない
課題を定義するのはクライアントの役割。解決策を提案するのは制作会社の役割です。
「タッチスクリーンウォールが必要」は解決策の指定。「来場者が商品カタログを魅力的に探索できる体験を作りたい」は課題の定義。後者であれば、クライアントが想像もしなかった創造的な解決策が生まれる余地があります。
スペックワーク(無償のアイデア提案)を求めない
RFPの段階で詳細なコンセプト、ワイヤーフレーム、クリエイティブピッチを求めるのは、優良な制作会社を遠ざけます。多くの実力派は辞退します。
代わりに求めるべきもの:
- 関連するポートフォリオ事例
- プロセスの説明
- 初期ディスカバリー(発見)フェーズへのアプローチ
- 過去クライアントからのリファレンス
予算を隠さない
「提案を見てから予算を議論します」は全員の時間を無駄にします。制作会社は安く見積もって後から品質を下げるか、高く見積もって選外になるか、どちらかのリスクを負います。
10社以上に一斉送信しない
大量送信されたRFPには汎用的な回答しか返ってきません。制作会社は一斉送信を見抜き、優先度を下げます。慎重に選んだ3〜5社に送る方が、10社に送るよりも良い提案を得られます。
4. ブリーフテンプレート
以下の構成を出発点にしてください。プロジェクトの特性に応じてカスタマイズしてください。
プロジェクトブリーフ:【プロジェクト名】
1. 発注者情報
- 会社名・団体名
- 概要
- Webサイト・関連リンク
2. プロジェクト概要
- 何を作り、なぜ作るのか
- どのような課題を解決するのか
3. 目的と成功指標
- 主要目標
- 成功の測定方法
4. ターゲットユーザー
- 誰が体験するのか
- 想定来場者数
- アクセシビリティ要件
5. 空間・現場情報
- 所在地
- 図面添付:有・無
- 寸法:縦 × 横 × 高さ
- 写真添付:有・無
- 電源・ネットワーク情報
- 搬入経路の制約
6. スケジュール
- 目標ローンチ日
- 主要マイルストーン
- 常設・仮設の区分
7. 予算
- 予算レンジ:______万円 〜 ______万円
- この予算に含まれる範囲
8. 参考事例
- 気に入っている事例(リンク付き)
- 各事例の評価ポイント
- アンチリファレンス(避けたい方向)
- ブランドガイドライン添付:有・無
9. 制約条件
- 技術要件
- 法令・コンプライアンス要件
- 運用ニーズ
10. ステークホルダーとプロセス
- キー意思決定者
- 承認プロセス
- 希望するコミュニケーションスタイル
11. 提出要領
- 提案提出期限
- 質問送付先:【メールアドレス】
- 希望するフォーマット
5. よくある失敗(と回避策)
目的が曖昧
「インタラクティブなものが欲しい」は目的ではありません。「来場者を感動させたい」も同様です。具体的で測定可能な成果を言語化しましょう。
現場資料が不足
制作会社は可視化できない空間のための設計はできません。図面がなければ手書きでも構いません。寸法を測り、スケッチを作成してください。
非現実的なスケジュール
複雑なインスタレーションには時間がかかります。4週間で必要な場合は、何を犠牲にするか(スコープ、カスタマイズ、完成度)を正直に検討してください。あるいは社内ステークホルダーにスケジュールの見直しを働きかけてください。
フィードバックを終盤まで溜める
懸念事項を最終レビューまで溜め込まないでください。コンセプト開発中の定期的なチェックインが、後工程での高コストな方向転換を防ぎます。ブリーフにフィードバックのリズムを明記してください。
無償のアイデアコンペとして扱う
制作会社に事前に大きなクリエイティブ投資を求めるなら、対価を支払う覚悟が必要です。さもなければ、実力のある制作会社は参加しません。ブリーフはスクリーニングと認識合わせのためのもの——デザインコンペではありません。
意思決定者が関与していない
プロジェクトを最も狂わせるのは、終盤になって現れ、決定を覆すステークホルダーです。意思決定者を最初から特定し、進捗を共有し続けてください。
6. ブリーフ送付後の流れ
回答期限の目安
包括的なブリーフに対しては、2〜3週間の回答期間を設けてください。複雑なプロジェクトはさらに時間が必要な場合があります。期限を明記し、回答期間中の質問には対応できるようにしてください。
良い提案の特徴
優れた提案には以下が含まれます:
- ブリーフを読み込み、理解した証拠
- 提案アプローチの明確な説明(完成デザインではなく)
- 関連するポートフォリオ事例
- 主要マイルストーンを含む概算スケジュール
- 明確な内訳のある予算見積もり
- チーム構成と役割分担
- 確認したい質問や明確化が必要な点
公平な提案比較のために
優先事項に基づくシンプルなスコアリング表を作成してください:
- 目的の理解度
- 関連実績
- クリエイティブアプローチ
- 技術力
- 予算の適合性
- チームとコミュニケーション適性
プロジェクトにとって何が最も重要かに応じて、各項目に重みづけしてください。
注意すべきサイン
- どのプロジェクトにも当てはまる汎用的な提案
- 質問や確認のリクエストがない
- 大きな幅のある曖昧な予算見積もり
- リファレンス提供への消極的な態度
- ディスカバリーを省いてすぐ制作に入ろうとする姿勢
7. ご相談ください
インタラクティブ・インスタレーションを計画中で、ブリーフへのフィードバックをお求めですか?私たちはプロジェクト相談を受け付け、スコープ、予算、実現可能性について率直な評価を提供しています。
パートナーシップをご検討中なら:
何を作ろうとしているか、どのアプローチが適切か、私たちが適したパートナーかどうかを一緒に話し合いましょう。
8. 送付前チェックリスト
ブリーフ送付前に確認してください:
- プロジェクトの目的と成功指標を明確に定義した
- ターゲットユーザーと想定来場者数を記載した
- 図面、寸法、現場写真を準備した
- 主要マイルストーンを含む現実的なスケジュールを設定した
- 予算レンジを決定した(隠さない)
- 参考事例を収集し、なぜ気に入っているか説明した
- アンチリファレンス(避けたい方向)を挙げた
- ブランドガイドラインを添付した
- 技術的・法的制約を記載した
- 意思決定者と承認プロセスを特定した
- 提出期限とフォーマットを明記した
[ここにブリーフを貼り付け]
以下の観点で評価をお願いします:
- 目標は具体的で測定可能か?
- ターゲットは明確か(属性、来場者数、アクセシビリティ要件)?
- 正確な見積もりに必要な空間・会場情報は十分か?
- 記載された内容に対してスケジュールは現実的か?
- 予算レンジは明確で適切か?
- 参考事例は有用か、曖昧すぎないか、指定しすぎていないか?
- 技術的・法的制約は明記されているか?
- 不足している重要な情報は何か?
改善のための具体的な提案をお願いします。
よくある質問(FAQ)
Q. ブリーフはどの程度詳しく書くべきですか? A. 目的、対象者、空間情報、スケジュール、予算レンジ、参考事例、制約条件をカバーした2〜4ページが目安です。関連性のある詳細であれば長くなっても問題ありません。ただし、水増しは避けてください。図面や写真は本文で説明するより添付資料として添えましょう。
Q. 予算は最初から伝えるべきですか? A. はい。予算レンジを共有すれば、制作会社はその範囲内で実現可能な提案を検討できます。伝えなければ、同じブリーフに対して300万円から5,000万円まで幅広い提案が届くこともあります。上限いっぱいまで使い切られることを心配するより、「検討中のレンジ」として伝えましょう。
Q. 何社にブリーフを送るべきですか? A. 3〜5社が理想的です。2社以下では選択肢が限られ、5社を超えると回答の質が下がり、評価も難しくなります。ポートフォリオと専門性がプロジェクトに合致する制作会社を選んでください。
Q. 図面がまだない場合はどうすればよいですか? A. 手書きでおおよその寸法を入れたスケッチを作成してください。複数アングルから写真と動画を撮影してください。天井高、電源の位置、障害物をメモしてください。何もないよりはるかに良く、現実的な制約を考えていることが伝わります。
Q. 制作会社への回答期限はどのくらいが適切ですか? A. 包括的な提案には2〜3週間が目安です。複雑なプロジェクトはさらに時間が必要な場合があります。ブリーフに期限を明記し、回答期間中の質問には対応できるようにしてください。
Q. ブリーフを送付後に修正できますか? A. はい。ただし変更は全社に同時に伝え、提案調整のための追加時間を与えてください。大幅な変更はプロセスの再開が必要になることもあります。軽微な確認・修正は通常想定内です。

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