北斎《神奈川沖浪裏》を体で遊ぶインタラクティブインスタレーション 大阪・関西万博 2025 事例

ルカム・ジョスラン

ルカム・ジョスラン

代表取締役、Utsubo株式会社

2025年12月8日·14分で読めます
北斎《神奈川沖浪裏》を体で遊ぶインタラクティブインスタレーション 大阪・関西万博 2025 事例

Table of Contents

Expo 2025 大阪「Waves of Connection」ケーススタディ

2025 年の夏、Utsubo は 大阪・関西万博 2025 のヘルスケアパビリオン内で、インタラクティブインスタレーション作品 「Waves of Connection」 を展示しました。

来場者は、葛飾北斎《神奈川沖浪裏》の世界に入り込み、
自分の身体の動きだけで「大波」を動かすことができる 体験です。

会期中は、子どもから大人まで、連日多くの人がこの波と遊び続けました。
子どもたちは何度も列に並び直し、大人やシニアの方も、最初は戸惑いながら、最後には笑顔で手を振っていました。

このページは、

  • 北斎展・浮世絵展などで、北斎インタラクティブインスタレーション浮世絵インタラクティブインスタレーション を探しているミュージアム
  • 体験型の デジタルアートインスタレーション を導入したいミュージアム/企画担当者

の方向けに、

  • なぜ北斎の大波を題材にしたのか
  • どのような体験・技術で実現しているのか
  • ミュージアムでの レンタル/再展示の条件 や活用イメージ

を整理したケーススタディです。


1. プロジェクトの背景 – Expo 2025 大阪での「Waves of Connection」

ヘルスケアパビリオンに展示された Waves of Connection の全景写真
ヘルスケアパビリオンに展示された Waves of Connection の全景写真

Waves of Connection: Connecting Humans through Technology は、
大阪・関西万博 2025 の ヘルスケアパビリオン において、次の条件で展示されました。

  • 会期:2025 年 8 月 12 日〜 18 日(7 日間)
  • 場所:大阪・関西万博 2025 ヘルスケアパビリオン内
  • 形式98 インチディスプレイ を使用したインタラクティブアートインスタレーション
  • 対象:一般来場者(ファミリー、子ども、国内外の観光客)

このプロジェクトは、大阪商工会議所によるスタートアップ支援プログラム 「リボーンチャレンジ」 の一環として採択された、
クライアントワークではなく、Utsubo オリジナルのアート作品 です。

私たちは大阪を拠点とする 外国人創業スタジオ として、
世界中から注目される万博という場で、

「日本の誰もが知っていて、世界でも愛されている日本美術」
×
「最新のテクノロジーで、技術的にもチャレンジングでインパクトのある体験をつくる」

というテーマにチャレンジしたいと考えました。

そこでたどり着いたのが、葛飾北斎の代表作 《神奈川沖浪裏》 をモチーフにした、
技術的にもチャレンジングな 北斎インタラクティブインスタレーション というコンセプトでした。


2. コンセプト – 北斎の大波を、21 世紀のテクノロジーで「再起動」する

The great wave off Kanagawa digital experience

19 世紀、浮世絵はフランスをはじめとするヨーロッパの画家たちに大きな影響を与えました。
モネ、ドガ、ゴッホなど多くの画家が、北斎の構図や色彩からインスピレーションを受けています。

Waves of Connection では、この歴史的な文脈を 21 世紀に引き寄せながら、次のようなコンセプトを掲げました。

  • 日本を代表するアイコンである The Great Wave off Kanagawa を、
    最新のインタラクティブ技術で 「生きた波」 として再解釈すること。
  • かつて日本美術がフランスの画家たちに影響を与えた歴史に対して、
    今度は 日本在住のフランス人クリエイターたち が、日本美術をデジタルで再構築することで、
    新しい文化的対話を生み出すこと。
  • 絵画として 「眺める」だけだった波 を、来場者が自分の身体で 「共に作り上げる波」 へと変えること。

私たちの目標は、原画を忠実に再現することではありませんでした。
むしろ北斎の大波が持つ エネルギー・うねり・光 を、

  • 粒子(パーティクル)の動き
  • 流体シミュレーション
  • インタラクティブな反応

といった要素に 翻訳する ことを目指しました。


3. 体験 – 「説明がなくても触りたくなる」インタラクティブ Hokusai

子どもから大人までが波と遊ぶインタラクティブ体験の様子

体験のルールは、とてもシンプルです。

ただ、身体を動かす。
すると、波が応えてくれる。

この作品には、操作方法を説明するテキストは 一切ありません
これは意図的な設計です。

  1. 来場者は、まず静かに揺れる大波のアニメーションを眺めます。
  2. 最初の数秒は、ほとんどの人が 「どうしたらいいのだろう?」 と迷っています。
  3. 誰かが、ためらいながら片手を上げてみます。
  4. その瞬間、波が大きく反応し、粒子が身体のまわりを渦巻きます。
  5. そこで必ず、「わっ!」という驚きの声と笑い声 が生まれます。

7 日間の展示の中で、印象的だったのはこんなシーンです。

  • ある来場者は、説明もないまま 音楽もない空間で数分間踊り続けてくれた こと。
    その人のダンスに合わせて波がうねり、周りの人から何度も拍手が起きました。
  • 子どもたちは一度体験すると、列に並び直して 何度も繰り返しプレイ してくれました。
    友達同士や兄弟と一緒に「どうしたら一番大きな波になるか」を試し続けている姿が印象的でした。
  • 大人やシニアの方は、最初はスクリーンの前で少し戸惑いながら立ち止まり、
    数秒考えたあとに、おそるおそる片手を動かしてみる
    波が反応した瞬間、「おお〜!」と声を上げて笑顔になり、両手を大きく振り始める —— そんな変化が何度も起きました。

3-1. 体験の様子を動画で見る

Expo 会場での様子や、実際のインタラクションは、下記の動画でご覧いただけます。


4. ビジュアル – 冷たいテックではなく「クリスマスウィンドウ」のような可愛さを

この作品を企画するときに、私たちは最初から

「最新テクノロジーのデモ」にはしたくない

と考えていました。

目指したのは、ハイテクというよりも、
デパートのクリスマスウィンドウのような、あたたかくて少しノスタルジックな世界 です。

  • 小さな世界が、丁寧に手でつくられているように感じられること。
  • 近づいて見ると、細部に小さな発見があること。
  • 子どもにとっては「かわいい」「楽しい」、
    大人にとってはどこか 懐かしく、詩的 に感じられること。

そのために、ビジュアル面では次のような工夫をしました。

  • 波を構成する粒子は、真珠のような小さなビーズ をイメージし、
    ギラギラ輝くのではなく、柔らかく光る質感にしました。
  • 配色は「未来的」「サイバー」よりも、
    やさしい光とグラデーション を中心にまとめ、漂うような印象を重視しました。

結果として、テクノロジーに詳しくない来場者でも、
「近寄りたくなる」「触ってみたくなる」雰囲気 をつくることができました。


5. 技術 – WebGPU・Kinect・流体シミュレーションでつくる 100 万粒子の波

裏側では、Waves of Connection はかなりチャレンジングなリアルタイムグラフィックスの実験でもあります。 万博での公開に向けて、約 4 か月間の R&D とプロトタイピング を重ねながら開発を進めました。

5-1. なぜ WebGPU なのか

この作品では、

  • リアルタイムで高速に反応すること
  • 数十万〜 100 万規模のパーティクルを扱えること

が必須条件でした。

そこで、描画には次の技術スタックを採用しています。

  • WebGPU
    • Apple・Google・Mozilla・Intel などが共同で策定している新世代の Web グラフィックス API
    • GPU に対する低レベルなアクセスと、コンピュートシェーダーによる高速計算が可能
  • Three.js
    • Web 上での 3D 表現のためのフレームワーク
    • レンダリング部分のベースとして使用

WebGPU を用いることで、最大 約 100 万個 のパーティクルをリアルタイムにシミュレーションしながら、
流れるような描画を実現しています。

5-2. Kinect による全身モーショントラッキング

来場者の動きは、Kinect 深度カメラ によって取得しています。

  • 骨格トラッキングにより、身体の位置や向きを認識
  • 同時に 最大 6 人まで をトラッキングし、
    それぞれのシルエットやジェスチャーを波の入力として使用
  • 手を上げる・ジャンプする・身体を傾ける —— といった動きが、
    そのまま波をかき回す 「力」 としてシミュレーションに加わります。

これにより、大人数で一緒に遊ぶ マルチプレイ型インスタレーション としても機能します。

5-3. オリジナルの流体シミュレーション

水の動きは、GPU 上で動作するオリジナルの 流体シミュレーション によって表現しています。

  • パーティクルは、水流を模した ベクトルフィールド に沿って動きます。
  • 来場者の身体から発生した「力」がこのフィールドに加わることで、
    波が大きくうねったり、小さな渦が生まれたりします。
  • 完全に物理的な正確さを追求するのではなく、
    「美しく」「分かりやすく」反応すること を優先してパラメータを調整しています。

その結果、
「少し動くと、ちょうど良く大きく波が返ってくる」 体験になっており、
子どもから大人まで直感的に楽しめる挙動になりました。

5-4. 98 インチディスプレイによる没入感

展示では、TCL 社の 98 インチ 4K ディスプレイ を使用しました。

  • 幅約 2 m のスクリーンいっぱいに波が広がることで、
    来場者は 自分が波の目の前に立っているような感覚 を得られます。
  • 特別なヘッドセットやデバイスは一切不要で、
    ただその場に立つだけ で没入感の高い体験を提供できます。

6. ミュージアム向け活用 – 北斎展・浮世絵展の「体験のハイライト」に

北斎をテーマにした美術館でのインタラクティブ・インスタレーション

Waves of Connection は、Expo 2025 大阪での展示後も、
ミュージアムやギャラリーでの レンタル/再展示が可能 な作品です。

特に、次のような企画との相性が良いと考えています。

  • 葛飾北斎展・浮世絵展など、に関連する展覧会(海外では “hokusai exhibit” として検索されるような企画)
  • 日本美術とデジタルを組み合わせた 体験型
  • 商業施設での 日本文化 × デジタルアートフェア
  • 企業イベント・ブランドエキシビションにおける インタラクティブなフォトスポット

6-1. 必要なスペース・機材条件

目安として、再展示には次のような条件を推奨しています。

  • ディスプレイまたはプロジェクター
    • 推奨:幅 2 m 前後の大型ディスプレイ(例:98 インチ)
    • より小さな画面でも動作は可能ですが、没入感の点から 2 m 前後を推奨しています。
    • プロジェクションの場合:4K 対応のプロジェクターと、できるだけ暗めの環境
  • 設置環境
    • スクリーンの背面に 壁面 があること(明るい窓の前は非推奨)
    • スクリーンから 1〜2 m 程度 のスペースを確保(来場者が並び、身体を動かせる距離)
  • ネットワーク
    • 作品自体は 完全オフラインで動作 します。
      常時インターネット接続は不要です。

詳細な電源容量・ PC スペックなどは、導入時に個別にご相談いただけます。

6-2. オプション:AI アナリティクスによる体験データの可視化

ご希望に応じて、カメラ映像をもとにした AI アナリティクス機能 を追加することも可能です。

  • 体験した人数
  • 年齢帯の分布(推定)
  • 性別の分布(推定)
  • ピーク時間帯

といった 統計情報のみ を取得し、ダッシュボード形式でご提供します。

  • 顔認識や個人の特定は行いません。
  • 取得するのは 匿名化された統計データのみ です。
  • プライバシーに配慮しつつ、展示の効果測定やレポート作成 にご活用いただけます。

7. 成果と学び – 数字と、現場で見えたこと

7-1. 数字で見る「Waves of Connection」

  • 展示期間:7 日間
  • 総インタラクション数:1 万人以上
  • 同時プレイ人数:最大 6 名
  • パーティクル数:最大約 100 万個(リアルタイムシミュレーション)

7-2. 現場で得られたインサイト

この北斎インタラクティブインスタレーションを通じて、いくつかの学びがありました。

  • 「あえて説明しない」ことで生まれる驚き
    • テキストのインストラクションを排除したことで、
      「最初の一歩」を踏み出した瞬間の驚きと笑い声が、体験の強い記憶になっていました。
  • 年齢を超えて共有される「遊び」
    • 子どもはすぐに走り回り、
      大人は少し時間をかけてから真剣に遊び始める —— そのギャップ自体が、見ていて楽しい光景でした。
  • スケールが生む身体感覚
    • 98 インチの大画面と高密度なパーティクルによって、
      実際に水しぶきがかかりそうな 物理的な感覚 を、多くの来場者が口にしていました。
  • アート × テクノロジー × 文化的ストーリーの強さ
    • 「北斎 × デジタルアート」という分かりやすい物語が、
      海外からの来場者にも届きやすかった点は、大きな手応えでした。

8. Utsubo について – アートとテクノロジーのあいだを探求するスタジオ

Utsubo は 2021 年創業の、大阪拠点のインタラクティブ・クリエイティブスタジオ です。

  • Web3D 体験
  • インタラクティブインスタレーション
  • WebGPU を用いたリアルタイムアート
  • Web ベースのゲーム・エクスペリエンス

など、ブラウザとフィジカルスペースのあいだ にある新しい体験づくりに特化しています。

これまでのプロジェクトは、

  • Awwwards
  • FWA
  • The Webby Awards

などの国際的なアワードでも評価されています。


9. 導入・共同制作のご相談(30 分オンライン相談)

Waves of Connection は、こんな方におすすめです。

  • 北斎展・浮世絵展に、「身体で遊べる」体験型インスタレーション を加えたい
  • ミュージアムのリニューアルに合わせて、ミュージアム向けデジタルアートインスタレーション を検討している
  • 北斎や浮世絵以外のテーマでも、たとえば 浮世絵インタラクティブインスタレーション のような体験を一から企画したい

まずは、企画段階のラフなご相談からでも構いません。
Utsubo では、30 分の無料オンライン相談 をご用意しています。

こちらから 30 分の無料相談を予約 していただくと、

  • 展覧会のテーマや来場者像
  • 会場条件や予算のレンジ
  • 既存の展示との兼ね合い

などをお伺いした上で、

  • 「Waves of Connection」をそのままレンタルする場合のプラン
  • 展覧会に合わせてカスタマイズする場合のアイデア
  • 完全オリジナルのインタラクティブインスタレーションを企画する場合の進め方

について、その場でフィードバックいたします。


10. よくある質問(FAQ)

Q. 北斎展・浮世絵展に合わせて、この作品だけをレンタルすることはできますか?

はい、可能です。
会期・会場条件・予算に応じて、

  • 作品本体のレンタル
  • セットアップ・オペレーションのサポート
  • AI アナリティクス(オプション)

を組み合わせたプランをご提案します。

Q. 展示に必要なスペースや機材の条件を教えてください。

推奨環境の一例は次の通りです。

  • 幅 2 m 前後の大型ディスプレイ、または同等サイズの 4K プロジェクション
  • スクリーンから 1〜2 m 程度の空きスペース(来場者が身体を動かせる範囲)
  • できるだけ暗めで、背面に壁のある場所
  • 一般的な電源環境

作品は完全オフラインで動作するため、常時インターネット回線は不要です。
具体的な条件は、会場図面を共有いただきながら調整いたします。

Q. 個人情報の取得や顔認識は行っていますか?

いいえ。
標準構成では、個人を特定できる情報は一切取得していません

オプションの AI アナリティクス機能を利用する場合でも、

  • 年齢帯・性別・人数などの 統計的な推定値 のみを集計し
  • 顔画像や動画を保存したり、個人を特定したりすることはありません。

プライバシーに配慮しつつ、展示の効果測定に必要なデータだけを取得する設計にしています。

Q. 北斎以外のテーマにもカスタマイズできますか?

はい、可能です。

  • 他の浮世絵や日本美術
  • 企業やブランドのビジュアルアイデンティティ
  • まったくオリジナルの抽象的なモチーフ

などに合わせて、波の見え方や粒子の振る舞い、色・光の表現をカスタマイズできます。
「文化的なモチーフ × インタラクティブインスタレーション」 の企画パートナーとしてもご相談ください。