海外展開(海外進出)は、国内で磨いたプロダクトを、前提の異なる市場でもう一度検証し直すプロジェクトです。言語や商習慣に加え、規制・決済・採用、そしてWebサイトで信頼を得る方法まで変わります。本ガイドでは、シード〜シリーズB期のスタートアップが押さえるべき判断軸を、8つの戦略と国内外の支援制度に沿って実行順に整理しました。
政府も2022年11月の「スタートアップ育成5か年計画」で起業人材の海外派遣を5年間で1,000人規模に広げる方針を示し、2023年度からは経済産業省とジェトロ(日本貿易振興機構)が派遣プログラム「J-StarX」を実施しています。使える支援は増えていますが、制度が役に立つのは、自社の段階と目的に合ったときだけです。
対象読者: 海外展開・海外進出を検討している、シード〜シリーズB期のスタートアップの経営者、事業開発・マーケティング責任者の方。
要点まとめ
- 海外展開は「準備度の診断 → 市場選定 → 現地適応 → 実行体制」の順に進めると、手戻りを減らせます。本ガイドの8つの戦略も、この順番に並べています。
- 外部環境はPESTEL(政治・経済・社会・技術・環境・法律の6要因)で、日本と進出先の違いはCAGE(文化・制度・地理・経済の4軸)で整理します。
- 市場選定は「二次データで候補を絞る → 現地インタビューで検証する → セグメントを定義する」の3ステップです。ジェトロの国・地域別情報は、日本語で読める基礎資料になります。
- 国内の支援(ジェトロ・中小機構・NEDOなど)と、進出先政府の誘致機関(SelectUSA・ビジネスフランス・GTAIなど)は併用できます。ジェトロ自身が、米国商務省主催のSelectUSA投資サミットへの参加ミッションを組成しています。
- 海外向けWebサイトは、日本語サイトの翻訳ではなく再設計が前提です。Utsuboの価格基準では、カスタム設計で300万円〜($20K〜)、言語を1つ追加するごとに+30〜50%が目安です。
- 参入のスピードを左右するのは、現地パートナーと多文化チームです。販売代理店・アドバイザー・合弁などの組み方を、進出形態とあわせて決めます。
8つの戦略の全体像
| フェーズ | 戦略 | この段階で決めること |
|---|---|---|
| 準備度の診断 | 1. 海外展開の準備度を診断する | 今、海外に出るべきか |
| 市場選定 | 2. 文化の違いを理解し、現地に合わせる/3. 進出先の市場と顧客セグメントを絞り込む | どの国の、誰に売るか |
| 現地適応 | 4. 海外ユーザー向けにWebサイトを再設計する/5. 市場ごとにコミュニケーションチャネルを選ぶ | 何を、どの言語とチャネルで伝えるか |
| 実行体制 | 6. 国内外の公的支援制度を活用する/7. 現地パートナーと組んで参入を早める/8. 多文化チームとネットワークをつくる | 誰と、どの資源で実行するか |
支援制度(第6章)は、実行段階だけのものではありません。ジェトロの国別情報や海外拠点での相談は、市場選定の段階から使えます。
1. 海外展開の準備度を診断する
最初に確かめるのは、「海外に出られるか」ではなく「今、出るべきか」です。製品、運用体制、外部環境、自社の立ち位置の4点を順に確認します。Webサイト・SNS・SEOなどデジタル面の準備度は、海外展開デジタル成熟度チェックリストの30項目(6カテゴリ)で点数化できます。
1-1. 製品・技術は海外でも通用するか
国内で評価された理由が、日本特有の商習慣や規制に依存していないかを見直します。日本の業務フローや法制度に合わせて作り込んだ機能は、そのままでは進出先の顧客の課題に当てはまらないことがあります。
進出先に似たソリューションがある場合は、自社との違いを一文で説明できるようにしておきます。一文で言えない違いは、現地の顧客にも伝わりません。
1-2. 運用体制は海外の業務量に耐えられるか
海外の顧客が増えると、問い合わせ対応、契約、請求、サポートのすべてに言語と時差の問題が加わります。最初から完璧な体制は要りませんが、次の3点は事前に決めておきます。
- 英語(または現地語)の問い合わせに、誰が、何時間以内に返信するか
- 利用規約・プライバシーポリシー・契約書を、どの言語でいつまでに用意するか
- 時差のある顧客からの障害報告やサポート依頼を、どの時間帯に受け付けるか
1-3. PESTEL分析で外部環境を洗い出す
PESTEL分析は、進出先のマクロ環境を6つの要因で整理するフレームワークです。
| 要因 | 確認すること |
|---|---|
| Political(政治) | 税制、補助金、貿易協定、外資規制など政府の政策 |
| Economic(経済) | インフレ率、金利、為替、購買力 |
| Social(社会) | 人口構成、消費行動、文化的背景 |
| Technological(技術) | デジタルインフラ、技術の普及度、競合技術の動向 |
| Environmental(環境) | 環境規制、サステナビリティへの意識 |
| Legal(法律) | 個人データの保護、雇用、競争法、業界ごとの許認可 |
スタートアップが見落としやすいのはLegalです。SaaSやアプリで現地の個人データを扱う場合、データ保護の規制はプロダクトの設計そのものに影響します。進出先の規制の概要は、ジェトロの国別ページにある「外資に関する規制」「税制」の項目から、日本語で確認できます。
1-4. SWOT分析で自社の立ち位置を整理する
SWOT分析では、自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)と、進出先の市場にある機会(Opportunities)・脅威(Threats)を並べます。進め方は次の4ステップです。
- 分析の対象(会社全体か、特定のプロダクトか)と進出候補国を決める
- 内部要因(強み・弱み)を洗い出す
- 外部要因(機会・脅威)を、1-3のPESTEL分析の結果から拾う
- 組み合わせから打ち手を決める(強み×機会=攻める領域、弱み×脅威=先に手当てすること、または避ける市場)
2. 文化の違いを理解し、現地に合わせる
市場の規模や成長性だけで進出先を選ぶと、数字に表れない「距離」でつまずきます。距離の測り方を持っておくと、候補国を同じ物差しで比べられます。
2-1. CAGEフレームワークで日本との「距離」を測る
経営学者のパンカジ・ゲマワットは、市場を隔てる壁を文化(Cultural)・制度(Administrative)・地理(Geographic)・経済(Economic)の4つに分類し、頭文字をとってCAGEフレームワークと呼んでいます(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー。原典は2001年のHarvard Business Review論文)。
| 軸 | 見るポイント | スタートアップが確認すること |
|---|---|---|
| 文化 | 言語、商習慣、コミュニケーションの前提、宗教 | プロダクト名の響き、営業資料や提案の書き方、意思決定の進め方 |
| 制度 | 規制、税制、許認可、通商協定 | 個人データの扱い、業界ごとの許認可、外資規制 |
| 地理 | 物理的な距離、時差、気候、物流 | サポートの対応時間、ハードウェアの輸送と保守 |
| 経済 | 所得水準、価格感度、人件費、インフラ | 価格設定、現地採用の人件費、決済手段 |
コミュニケーションの前提の違いは、Webサイトや営業メール、SNSでの発信にそのまま表れます。日本企業のデジタル発信で起きやすいズレは、外国人に届かない日本企業のデジタルコミュニケーションで7つのパターンに分けて解説しています。
2-2. 事例:ホンダ「フィット」は発売直前に車名を変えた
ホンダの初代「フィット」は、2001年6月に日本で発売されました。当初は「フィッタ(Fitta)」の名前で発売する計画でしたが、発売直前に、この言葉がスウェーデン語などスカンジナビア諸語で女性器を指す卑語だとわかり、車名を「フィット(Fit)」に変更しています。最終的に、日本・南北アメリカ・中国・台湾などでは「Fit」、北欧を含む欧州など多くの地域では「Jazz」の名前で販売されました(Wikipedia「Honda Fit」、ベストカーWeb)。
同じような例として、三菱自動車の「パジェロ」は、スペイン語圏の多くの国で好ましくない意味を持つため、「モンテロ」の名前で販売されてきました(CNN.co.jp)。
ホンダは発売前に気づけたため、販売後の改名は避けられました。スタートアップの場合、社名・プロダクト名・ドメイン・SNSのアカウント名は早い段階で決まり、あとで変えるほど作り直すものが増えます。名前の候補が挙がった段階で、進出候補国のネイティブスピーカーに意味と響きを確認してください。
2-3. 名前を決めたら、進出先の商標も確認する
知的財産権は国ごとに独立しているため、日本で商標を登録しても、進出先では権利になりません(特許庁)。登録済みの商標は、日本はJ-PlatPatで、海外はWIPOのGlobal Brand Databaseで検索できます。
出願費用には、特許庁の「海外出願支援事業」(外国出願補助金)が使えます。令和8年度は、中小企業の外国出願費用の1/2が補助され、上限は商標が1案件60万円、1企業あたり300万円(複数案件の場合)です。日本で出願済みであることが条件で、大企業の実質的な支配下にある「みなし大企業」は対象外です。申請の窓口は、各都道府県等の中小企業支援センターです。
3. 進出先の市場と顧客セグメントを絞り込む
GDPや人口といったマクロ指標は、候補国を並べるための入り口にすぎません。見極めたいのは、自社の価値提案が最も受け入れられやすく、規制と競合の壁を越えられる市場です。次の3ステップで絞り込みます。
3-1. ステップ1:二次データで候補国を絞る
最初は公開データで、候補を数か国に絞ります。日本語で読める基礎資料として便利なのが、ジェトロの「国・地域別に見る」です。国別のページには「概況・基本統計」「外資に関する規制」「税制」「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」「外国企業の会社設立手続き・必要書類」などがまとまっており、最新の動きは「ビジネス短信」で追えます。国をまたいだ比較には、OECDや世界銀行などの国際統計も使えます。
3-2. ステップ2:現地インタビューで仮説を検証する
二次データからは、「なぜ買うのか/なぜ買わないのか」がわかりません。想定顧客へのインタビュー、デモ、ユーザーテストで、課題の切実さ、購買の決め手、意思決定者、いま使っている代替手段を確かめます。
現地に足場がない段階では、ジェトロのグローバル・アクセラレーション・ハブが使えます。シリコンバレー、ロンドン、パリ、シンガポールなど世界各地の拠点で、現地のアクセラレーター等と連携したブリーフィングやメンタリングを無料で受けられます(対象条件は第6章)。
3-3. ステップ3:セグメントを定義する
最後に、「どの国の、どの業種・規模の企業の、どの役職の人に、どの課題で売るか」を一文で定義します。最初の市場では、狙う範囲を狭く取るほど、営業資料やWebサイトのメッセージを具体的にできます。
当社の情報:
- 事業内容:[記入]
- 顧客(BtoB/BtoC、業種、役職):[記入]
- 国内での実績(顧客数・売上規模など):[記入]
- 候補国:[国名を2〜4つ]
比較してほしい観点:
- CAGEの4軸(文化・制度・地理・経済)で見た日本との距離
- 規制・許認可で注意すべき点
- 主な競合と、当社の違いが伝わりやすいか
- 最初に検証すべき仮説と、インタビューすべき相手
最後に、推奨する進出先とその理由を、前提条件つきでまとめてください。
4. 海外ユーザー向けにWebサイトを再設計する
面識のない海外の見込み客や投資家、提携候補にとって、Webサイトは会う前に会社を判断する材料になります。日本語サイトを翻訳しただけでは、情報の優先順位、信頼の示し方、問い合わせまでの導線が、海外の読み手に合いません。海外向けサイトは、翻訳ではなく再設計を前提に考えます。
4-1. 翻訳ではなく、ローカライズする
直訳すると、日本語では自然な言い回しや前置きが、海外の読み手には要点の見えない文章になりがちです。対象国の言語と文化に合わせて書き直す(トランスクリエーション)ことで、はじめて伝わるコピーになります。設計・技術・運用の全体像は外国人に選ばれるWebサイトの作り方で、BtoBで海外の顧客から問い合わせを受け取るための設計は外国人バイヤーを動かすBtoB企業サイト戦略で解説しています。
4-2. 言語・地域ごとのSEOを設計する
現地で実際に検索される言葉でキーワードを選び直し、言語・地域ごとのページの関係をhreflangで検索エンジンに伝えます。Googleも、ページに言語や地域ごとの複数のバージョンがある場合は、その関係を知らせるよう案内しています(Google 検索セントラル)。Google以外の検索エンジンが強い市場については、第5章で触れます。
4-3. 通貨と決済を現地に合わせる
価格を現地通貨で表示し、現地で使われている決済手段(PayPal、Alipay、Klarnaなど)に対応すると、購入時の迷いを減らせます。SaaSであれば、請求書払いへの対応や、現地の税制に合った請求書の発行も確認しておきます。

上は2025年5月時点のYahoo! JAPAN、下は米国版Yahoo!のトップページです。同じブランドでも、日本版はテキストリンクと情報量が多く、米国版は大きな写真と見出しを中心に構成されています。自社サイトを海外向けにする際も、情報量や見せ方を読み手の慣れに合わせる必要があります。
4-4. 予算と期間の目安
| 範囲 | 予算の目安 |
|---|---|
| テンプレートベース・軽微なカスタム(5〜15ページ程度) | 75万〜225万円($5K〜$15K) |
| カスタム設計(独自のUI・ブランド表現・CMS・SEO) | 300万円〜($20K〜) |
| 言語の追加 | 1言語ごとに+30〜50% |
| 保守・運用 | 制作費の15〜20%/年 |
※Utsuboの価格基準に基づく目安です($1=150円で換算)。
期間は、発注前の準備(RFP作成から契約まで)に4〜8週間、制作に2〜6か月が目安です。発注の進め方や見積もりの比べ方は、海外向けサイト制作の完全ガイドにまとめています。Utsuboの海外向けホームページ制作では、英語コピーのトランスクリエーションからhreflang設計、多言語CMSまで一貫して対応しています。
5. 市場ごとにコミュニケーションチャネルを選ぶ
顧客とつながる手段は、国によって大きく異なります。日本で成果の出たチャネルが、進出先でも主役になるとは限りません。
5-1. メッセージアプリ:国ごとに「標準」が違う
日本のLINEのように、多くの国には生活インフラになっているメッセージアプリがあります。
| 国・地域 | 主なメッセージアプリ | 利用規模 |
|---|---|---|
| 日本 | LINE | 国内月間利用者数1億ユーザー超(2025年12月末、LINEヤフー) |
| 韓国 | カカオトーク | 国内の月間アクティブユーザー約4,963万人(2026年4〜6月期の平均、カカオ) |
| 中国 | WeChat(微信) | WeixinとWeChatの合計月間アクティブユーザー14億3,900万人(2026年6月末、テンセント) |
進出先の顧客とどのアプリでやり取りするかは、サポート体制や問い合わせ導線の設計にも影響します。
5-2. SNS:商材と市場で主戦場が変わる
力を入れるべきSNSは、BtoBかBtoCかで変わります。BtoBのスタートアップなら、ビジネス特化型のLinkedInが有力な候補です。LinkedInの会員数は、世界200以上の国・地域で10億人を超えています(LinkedIn)。BtoCであれば、現地の生活者が日常的に使うSNSと、現地のメディアやインフルエンサーとの組み合わせを検討します。
5-3. 検索エンジン:Googleだけでは足りない市場がある
検索対策も、Googleだけを見ていればよいとは限りません。StatCounterの計測では、2026年8月の韓国の検索シェアはGoogleが46.6%、NAVERが43.7%と拮抗しており、中国では百度(Baidu)が59.3%を占めています(StatCounter:韓国、StatCounter:中国)。こうした市場では、現地の検索エンジンに合わせた対策も必要です。
メールマガジンが好まれる市場もあれば、メッセージアプリでの素早いやり取りが好まれる市場もあります。単一のチャネルに頼らず、現地の顧客が日常的に使う手段を組み合わせるのが基本です。
6. 国内外の公的支援制度を活用する
海外展開の支援には、大きく2種類あります。日本側で準備と挑戦を支える国内の制度と、進出先の政府が外国企業を誘致するために用意している窓口です。主な制度を、2026年9月時点の情報でまとめました。
6-1. 主な支援制度の比較(2026年9月時点)
| 制度・機関 | 運営 | 主な内容 | 主な対象・条件 |
|---|---|---|---|
| グローバル・アクセラレーション・ハブ(GAH) | ジェトロ | 世界各地の拠点で、現地のアクセラレーター等と連携したブリーフィング、メンタリング、コワーキングスペースを無料で提供 | 革新的な技術・製品と具体的なビジネスモデルを持ち、資金調達などで短期間のスケールアップを目指す日系スタートアップ。社内で意思決定権を持つ方が、必要に応じて英語で相談できること |
| J-StarX | 経済産業省・ジェトロ | 起業家・スタートアップの海外派遣プログラム。シリコンバレー、英国、フランスなどのコース別に、国内研修・メンタリング・現地派遣を実施。受講料はジェトロが負担し、渡航費などは原則として参加者の負担(宿泊費を支援するコースもあり) | 日本に拠点を持つスタートアップの創業者・CXOクラスなど(学生向けのコースもあり)。英語でメンタリングや商談ができること |
| 海外展開ハンズオン支援 | 中小機構(中小企業基盤整備機構) | 国内外200名超の登録専門家が、進出先の選定から法務・税務・規制・現地マーケティングまで無料で相談に対応(オンライン可) | 中小企業。中小企業基本法の定義(資本金または従業員数が業種ごとの基準以下)に当てはまれば、スタートアップも対象 |
| ディープテック・スタートアップ支援基金/国際共同研究開発 | NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構) | 海外市場への展開を目的とした海外企業との共同研究開発を、相手国側の支援機関と並行して補助(補助率2/3以内、上限1億円/件、期間は原則2〜3年)。2026年度の公募期間は2026年10月7日〜2027年1月20日 | 日本に登記された未上場の中小企業で、原則として設立10年以内(またはVC等から初めて資金調達してから5年以内)のディープテック・スタートアップ |
| 海外出願支援事業(外国出願補助金) | 特許庁(窓口は都道府県等の中小企業支援センター) | 特許・商標などの外国出願費用の1/2を補助(商標は1案件60万円、1企業あたり300万円まで) | 中小企業(みなし大企業を除く)。日本で出願済みであること |
| SelectUSA | 米国商務省 | 米国への進出・事業拡大の判断に必要な情報の提供、州・地域の企業誘致担当者の紹介、連邦規制に関する情報。相談内容は機密情報として扱われる。次回の投資サミットは2027年5月2〜5日(メリーランド州) | 米国への進出・事業拡大を検討する外国企業 |
| ビジネスフランス(Business France) | フランス貿易投資庁 | 対仏投資の誘致と、外国企業のフランス進出の支援。東京事務所は在日フランス大使館内 | フランスへの進出を検討する外国企業 |
| GTAI(Germany Trade & Invest) | ドイツ連邦共和国の経済振興機関 | 外国企業のドイツ拠点進出と事業拡大を支援。東京を含む世界60都市に事務所 | ドイツへの進出を検討する外国企業 |
※ビジネスフランスとGTAIのリンク先は、各機関の概要と連絡先をまとめたジェトロのページです。制度の内容や公募期間は年度ごとに変わるため、申請前に必ず各機関の公式ページで最新情報を確認してください。
表のほかにも、ジェトロはCESなど海外の大型テックイベントにJAPANパビリオンを設け、スタートアップの出展、ピッチ、海外企業やVCとのマッチングを支援しています。官民連携のスタートアップ集中支援プログラム「J-Startup」の一環で、CES 2027(2027年1月6〜9日、米国ラスベガス)には35社程度が出展する予定です(募集は2026年7月21日に締切済み。ジェトロ)。
欧州で使える制度を探す場合は、欧州委員会と経済産業省が1987年に設立した日欧産業協力センターが、日本企業とそのEU子会社を対象にしたEUの投資支援の募集情報をまとめています。国内の支援策全体は、内閣官房のスタートアップ育成ポータルサイトで、対象ステージや募集期間から検索できます。
6-2. 国内の支援と進出先の支援は併用できる
国内の制度と進出先の誘致機関は役割が異なるため、組み合わせて使えます。実際、ジェトロは2026年5月に米国商務省主催の「SelectUSA投資サミット」へ参加ミッションを派遣し、製造・ヘルスケア・AIなどの分野から、スタートアップを含む日本企業12社・19人が参加しました(ジェトロ ビジネス短信)。ミッションの参加企業は、サミットの登録料が基本免除となるほか、事前オリエンテーションや州政府関係者との面談などの支援を受けられる仕組みでした(参加ミッションの募集案内)。
進出先の誘致機関の連絡先は、ジェトロの国別ページ「投資促進機関」に日本語でまとまっています。まず国内の制度で準備を整え、進出先が固まった段階で現地の誘致機関に相談する、という順番で進めると効率的です。
7. 現地パートナーと組んで参入を早める
現地にパートナーを持たずに参入すると、販路、人脈、規制への対応をすべて自社でゼロから築くことになります。信頼できるパートナーがいれば、その市場の知見を借りて、検証と拡大のスピードを上げられます。
7-1. 進出形態を決める
パートナーとの組み方は、進出形態と表裏一体です。
| 形態 | できること | 注意点 |
|---|---|---|
| 輸出・販売代理店 | 自社の拠点を持たずに、代理店の販路で販売できる | 価格、サポート、独占権などの役割分担を契約で明確にする |
| 駐在員事務所 | 連絡業務、情報収集、市場調査、販売代理店の支援 | 現地で営業活動はできない |
| 支店 | 現地で営業活動ができる | 国によっては設置そのものが認められない |
| 現地法人(独資) | 進出先の国内法人として、自社の裁量で経営できる | 当局との折衝や販売網の構築を自社で担う |
| 合弁 | 現地企業のノウハウを生かした経営が期待できる | 経営の自由に制約があり、解散・撤退の際にトラブルになることもある |
出典:ジェトロ「初めての海外進出 STEP2:進出計画案の策定」(駐在員事務所〜合弁の行)
7-2. 組むべきパートナーの種類
- 販売代理店・ディストリビューター:現地の流通構造や商習慣を理解している相手を選べば、物流と販売の立ち上げを早められます。
- アドバイザー・メンター:市場動向、法規制、ビジネス文化に詳しい専門家は、初期の高くつく失敗を避ける助けになります。第6章のGAHやJ-StarXのメンタリングも入口になります。
- 業務提携・合弁:長期的に市場に根を張るなら、自社の技術と、現地企業の顧客基盤・ノウハウを組み合わせる選択肢があります。
パートナー候補を探す場としては、中小機構のビジネスマッチングサイトJ-GoodTech(ジェグテック)もあります。海外企業約9,000社を含む約4万社が登録しており、会員は無料で利用できます。
8. 多文化チームとネットワークをつくる
海外市場で成果を出すには、現地の文化や商習慣を理解し、それを意思決定に反映できるチームが必要です。
- 現地採用のスタッフ:顧客の期待や購買の進め方を肌で理解しており、法律や商習慣への対応でも頼りになります。採用や在留資格の制度は、ジェトロの国別ページ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」で確認できます。
- 語学力と異文化対応力のある日本側のメンバー:本社の意思決定者が英語で直接やり取りできるかどうかは、商談のスピードだけでなく、支援制度の利用条件にも関わります。GAHもJ-StarXも、英語で相談や商談ができることを条件にしています。
- 外部の専門家・フリーランス:翻訳、現地の法務、マーケティングなど、必要なときだけ専門家の知見を取り入れれば、社内に大きな体制を持たずに質を確保できます。
ネットワークづくりでは、現地のスタートアップコミュニティや業界イベントに継続して顔を出すことが、パートナーや顧客との出会いにつながります。
海外展開には準備と慎重な判断が欠かせませんが、日本のスタートアップにとっては、国内市場の外に顧客と成長の機会を広げるチャンスでもあります。準備度の診断から実行体制まで、8つの戦略を順番に進めることで、手戻りの少ない海外展開の土台をつくれます。
9. Utsuboについて
Utsuboは大阪を拠点とするクリエイティブスタジオです。JR西日本、中小機構、大阪・関西万博2025などの案件を手がけ、自社サイトを日本語・英語・フランス語の3言語で運営しています。
海外向けWebサイトの設計・制作、Three.js/WebGLを使ったWeb体験、インタラクティブインスタレーションを手がけています。英語で公開したAIスタートアップのブランディングとWebサイトの事例は、Vectrのケーススタディでご紹介しています。
自社サイトを3言語で運営しているため、言語ごとの更新の遅れや情報の食い違いといった多言語サイトの運用課題にも、私たち自身が日々向き合っています。
10. ご相談ください
海外展開に向けて、海外の顧客や投資家に届くWebサイトやブランド体験を準備していますか?私たちは海外向けWebサイト、インタラクティブ体験、没入型ブランドプロジェクトでチームと協業しています。
パートナーシップをご検討中なら、プロジェクトについてお話しましょう:
- 何を構築しているか、どのような制約があるか
- 目標に対してどの技術アプローチが適切か
- 私たちが実行をお手伝いするのに適したパートナーかどうか
11. よくある質問(FAQ)
海外進出と海外展開の違いは何ですか?
厳密な定義はありませんが、一般に「海外進出」は現地法人や支店の設立など、拠点を置いて海外市場に入る行為を指します。「海外展開」は、輸出や越境EC、現地企業との提携も含めた海外事業の拡大全体を指す言葉として使われます。ジェトロのサイトでも「輸出」「越境EC」「海外進出」は別のテーマとして整理されています。本ガイドは、その両方を対象にしています。
最初の進出先はどう選べばよいですか?
市場規模だけで選ばず、3つのステップで絞り込みます。まず、ジェトロの国・地域別情報などの二次データで候補国を数か国に絞ります。次に、現地の想定顧客へのインタビューで需要と購買の進め方を確かめます。最後に「どの国の、どの業種の、誰に、どの課題で売るか」というセグメントを定義します。候補国どうしは、CAGEの4軸(文化・制度・地理・経済)で日本との距離を比べると判断しやすくなります。
スタートアップが使える公的支援には何がありますか?
国内では、ジェトロのグローバル・アクセラレーション・ハブ(海外拠点でのメンタリングなど、無料)、経済産業省とジェトロの派遣プログラム「J-StarX」、中小機構の海外展開ハンズオン支援(専門家への相談、無料)、ディープテック向けのNEDO国際共同研究開発(補助率2/3以内)、特許庁の外国出願補助金があります。進出先では、米国のSelectUSA、フランスのビジネスフランス、ドイツのGTAIなどが外国企業の進出を支援しています。国内と海外の支援は併用できます。内容は年度ごとに変わるため、詳細と出典は第6章の比較表(2026年9月時点)をご確認ください。
英語サイトはいつ、いくらで作るべきですか?
展示会への出展や海外での資金調達など、海外の見込み客・投資家・提携候補と接点を持つ前に公開しておくのが理想です。発注前の準備に4〜8週間、制作に2〜6か月かかるため、そこから逆算して着手してください。Utsuboの価格基準では、テンプレートベースなら75万〜225万円($5K〜$15K)、海外向けに情報設計から作るカスタムサイトは300万円〜($20K〜)、言語を1つ追加するごとに+30〜50%、保守・運用は制作費の15〜20%/年が目安です。
海外進出に現地法人は必要ですか?
最初から必要とは限りません。販売代理店を通じた輸出や業務提携であれば、自社の拠点を持たずに現地で販売できます。拠点を置く場合、駐在員事務所は市場調査や連絡業務はできても現地での営業活動はできず、支店は国によって設置そのものが認められないことがあります。現地法人は進出先の国内法人として営業できる一方、当局との折衝や販売網づくりを自社で担う必要があります(出典:ジェトロ「初めての海外進出」)。需要を確かめてから法人設立を判断するのが現実的です。
海外展開でよくある失敗は何ですか?
本ガイドで取り上げた中で特に避けたいのは、市場規模だけで進出先を選んで文化や制度の違いに後から気づくこと、プロダクト名や社名の意味を現地の言葉で確かめないまま準備を進めること、日本語サイトを翻訳しただけで海外向けサイトとして公開することの3つです。ホンダが初代フィットの車名を発売直前に「フィッタ」から変更した例のように、確認が早いほど修正は小さく済みます。支援制度や現地パートナーを早い段階から使うことも、失敗を減らす近道です。

海外に“伝わる”Webサイトを、日本から。


